「隣の乗客」
むらをさんの投稿
 (文章の一部について、MoMoが加筆修正いたしました)


私は電車で通勤しているのですが、
つい先日の仕事の帰りでの事、
ちょうど電車が天王寺の駅に着いたところで、
運良く座わる事が出来たんです。
いわゆる帰宅ラッシュというやつで、
JR環状線も阪和線も満員なので、めったに座る事など出来ません。

ちょっと得した気分になって、周りを見渡してみたんですが、
皆、一様に疲れた顔・・・あぁ〜あって感じです。
ふと、横を見ると
推定50歳位の男性がスポーツ新聞を読んでいます。

僕は、ウォークマンを聞きながら、
バッグから文庫本を取り出すと読み始めました。

天王寺を発った車内は、
ひとつ、またひとつと駅に停車するたびに乗客に数を減らしていきます。
そのうち、
車両の中には立っている客もほとんどいなくなりました。

僕は停車する駅名をチェックしつつ、文庫本に目を落としていました。
隣の男性もひたすらスポーツ新聞を読んでいる様子です。

やがて、
僕が降りる駅が近づいてきたので、
僕は文庫本を閉じ、バッグに入れると
何気なく向かいの窓ガラスに目を向けたんです。

窓ガラスに映る僕の顔。
そして、
僕の横にはスポーツ新聞を読んでいる男性・・・
いえ、
そこには誰もいないのです。
僕の隣には誰もいないのです。

僕は恐る恐る横目で隣を見ると、
確かに男性がスポーツ新聞を読んでいます。

もう一度視線を向かいの窓に戻すと、
やっぱり・・・間違いなく、誰もいないのです。

見てはいけないものを見てしまった・・・

ちょうど、その時、
電車が駅に到着しドアが開いたんです。

僕は、一目散に電車から飛び出しました。
そして、
降り際に振り返ると
男性はやっぱりそこに座っていてスポーツ新聞を読んでいました。
しかし、
その後ろの窓には、映るべき男性のも後姿は映っていませんでした。

あの男性はいったい・・・・・