「帝都怪談U (洋館)」
周さんの投稿
(原文のまま)


まだ曽祖父が学生だった大正7年夏の事
本所の悪友・真田幸高(真田伯爵の次男)・・・通称御前と
日暮れから一杯やっていたそうです。

飲んでいるうちに、
近くにある洋館に最近怪異が起こるという話題があがったので
徳利、肴片手にその西洋館で夜を明かそうと言う事になったんです。
(なんて酔狂な・・・・)

両名は、蝉の音が蟋蟀に鳴き変わり、子の鐘を聞き夜が更け、
東の空が白み、鳥の瞼が開くまで飲んでいたそうです。
しかし、
結局、何も出なかったんです。

只の噂であったか・・・と両名笑い合うと、
本所の真田屋敷に戻って朝飯にでもしよう。
・・・・と、話が纏り屋敷へと曳き返したんですが
屋敷の門の前までくると、
門の前を掃いていた下男が驚いた顔をして

『若?いつの間に表にでたんですか?』

『何を言ってる?私は夕べから屋敷を空けて今帰ったところだ』

『いえ、それが半時ばかり前に若と明治郎さんが帰って来て、
 今朝餉をおだしている筈で』

両名は奥座敷に急ぐと、顔を合わせる者全て

『いつの間に外へいったんですか』
『いましがたお膳を運んで会ったところですよ』

奥座敷の唐紙をガラッと開けると、そこには誰も居らず
二人分の膳が据えられ、朝餉はまだ湯気を立てており、
座布団はまだ暖かかったそうです。