「帝都怪談T (菓子)」
周さんの投稿
(原文のまま)


僕の曽祖父が帝都に出てきたばかりの頃の事。
苦学生だった曽祖父は、
谷中のとある寺の離れを借りて住む事にしたそうです。
これは、
その寺の離れで起きた少々変わったお話です。

家賃格安賄いつき一円二十銭(現在の貨幣換算で7000円くらい)
・・・とういう信じられないほどの好条件でした。
曽祖父の借りた寺の離れは、寺の鐘搗き台の脇に建っていてました。
掃除と荷解きを終え、
漸く部屋らしくなったのは夜も大分更けていたそうです。

さて、ねるべえか・・・・と床を敷きかけた時の事。
表から何やら声が響いてきました。
それも一人二人ではなくかなりの数のしかも子供の声です。
?と思った曽祖父は火頭窓をガラッと開けました。
とたんに、声は止み周囲は静寂がひろがりました。

『気のせいか?』

と窓を閉めると再び子供の嬌声が響いてきます。
再び窓を開け

『うるさあああああい』

と怒鳴りますと、またシーンと静まり帰ります。
夜具の上でどっかと腰をおろした曽祖父は

『むーこれでは安眠ができぬ・・・・お、そうだ!相手が子供なら!』

と、懐紙にコンペイトウを少々包むと表に出て

『菓子をやるからもう少し向こうで遊んでくれないか?』

と周囲に言い放ち、池の側に懐紙を広げて置きました。
これで良しと部屋に戻ると
効果は覿面でその晩は何事も起きず熟睡できたでした。

さて、
翌朝 御坊が曽祖父の元を訪れました。
昨日の事を備に語ると御坊は

『あれは、幽霊ではございませぬ。
この周辺の子供達の生きスダマでございますよ』

御坊の話によりますと、
遊び足らぬ子供達が眠っている間に体から魂が抜け出して
この鐘搗き台のしたで遊ぶとの事。

『害は無いのですが眠れましたかな?』
『はい、菓子をやりましたので安眠できました』
『それは重畳。で、その菓子は?』
『池の側に』

と目をやると懐紙ごときれいに無くなっていたそうです。
この事象は、
曽祖父が本郷に転居する二年の間ちょいちょい起きました。
家賃より菓子代が高くついたと曾祖母に笑って聞かせていたそうです。

子供っていつの時代でも変わらないものですね〜。