「丹花の唇」
周さんの投稿
(原文のまま)


これは、今から10年ほど前起こったお話です。

僕には一回り歳の離れた従姉がいます。
家が近かったので赤ん坊の頃からその従姉に
遊んでもらって育ちました。(苛められて育った?)
ですから、
従姉というより実の姉に近い感がありました。

93年の夏の出来事
従姉妹の結婚が決まり、式場の下見に出た従姉は、
その帰り交通事故に遭いました。
電話の報を受けた僕と両親が駆けつけた時には
従姉は集中治療室に入れられて、何本もの管が繋がれ
各所に置かれた医療機が定期的な電子音が周囲に響いていました。
昏睡は5日続き、
助かっても脳に障害が出ているとの診断が下っていました。
(このときの状況は書くにしのびません。)

週末の夕方の事です。
僕は放課後、制服姿のまま従姉の病室に見舞いにいったのですが
看護婦に
『着替えさせなければいけないから十五分程外で待っていて』・・・と

外で壁に背凭れて待っていたところ
歳の頃 18,9才位の丹を塗ったような赤い唇の女性が
従姉の病室の前に来ました。

『お母さんの病室ここでしょ』
『?違いますよここは****の病室です』
『間違い無いわ 母さんよ』
『ちがいますよ』
『間に合わないわそこどいて』
と、無理に入ろうとするので
『駄目ですよ』

すると、
すいっとその女の体は僕の体とドアをすり抜けてしまいました。

『うあっ!』

僕がそのまま床にへたり込むと、途端にドアがばたんと開き

『****さんが気がつきましたよ!!』

その後の回復は劇的で
医師が心配していた後遺症もなく
無事従姉は、予定より一月遅れでありましたが、
純白の衣装を纏い華燭の典を挙げられたのでした。


その後 僕が高校に入った頃 
従姉には女の子が生まれました。
(僕の事を叔父さんなどと呼ぶのですが・・・)
最近になって、
この事を彼女に話しますと

『ふーん。じゃあいずれ学生服の叔父さんに会うのかな?』
『さーて、でも覚えとくんだね』

・・・・・
さて、あの女の人は姪だったのかそれとも・・・・?


【丹花の唇】
たんか-のくちびる 
美人の唇を赤い花にたとえていう語。