「痩せた背中」
ニャンコ@バスガイドさんの投稿
 (投稿原稿の内容を尊重しつつMoMoがリライトいたしました)


九州でバスガイドをしているニャンコと申します。
この話は
大分県の別府温泉に宿泊した時の出来事です。

お客様を御案内したホテルは
その日はあいにく満館で、私達乗務員は他館になったんです。

他館先は鉄輪温泉のホテル(ビジネスホテル風?!)の貸し間。
この宿、
普段は他館先として乗務員を受け入れないんですが、
どの他館先も一杯だったので、
仕方なく私達を受け入れる事になったようです。
貸し間ということですので、当然、食事は作っもらえないので、
夕食は近くの食堂から出前を取りました。
この出前というのが・・・・

話が少しそれちゃいましたね。

話をもどして・・・、

私とドライバーが、
この他館先のホテルにチェックインしたのは15時過ぎ。
時間的に余裕があったので、
私は夕食前にお風呂に入る事にしたんです。

ホテルの一階にある大浴場に行くと、
脱衣所の脱衣籠が全部伏せられてキレイに並んでいます。

(おっ、一番乗りだ! ラッキー!)

浴場の中は換気が弱いのか湯気が少し立ち込めていました。

(うぅ〜ん、これは、これで趣があるかも・・・)

私はそんな事を思いながら、
シャワーでかかり湯をして湯船に入ろうとした瞬間、
「ゾクッ!」・・・と、
何とも言いようがない寒気を感じたんです。

(おかしいわ?! すきま風が入ってくるんだったら、
        こんなに湯気が立ち込めてるはずないのに・・・)

私は、とにかく暖かいお湯に・・・ということで、
スグに湯船に入ったのですが、一向に身体が温まってきません。

(どうして? 湯船の中にいるのに、寒気が収まらない・・・)

その時、
背後のシャワー付近に人の気配を感じたのです。
振り返ると そこには、
肌の色が透ける様に白い女性が私に背を向けて座っています。
イスにではなく、
直接風呂場のタイルの上に体育座りをし背中を丸めているのです。
痩せた背中には背骨がクッキリと浮き出ています。

私が浴場に入る前には誰も入ってなかったし、
私の後にも誰も入ってきてません。
(脱衣所からの引き戸の音がしなかったので・・・)

「ゆ、幽霊・・・?!」

私はすぐにそう思ったのですが、
とっさに身体が動かず・・・
というか、恐怖のあまりどうしていいか解らず、
その女性の背中を見ながら 湯船につかっていました。

そのうち、
その女性がとても寂しそうで
悲しそうに見えきたのと同時に恐怖心も無くなってきて、
私はつい彼女に話かけてしまったんです。

「あのぉ〜、寒くないですか?」

すると女性は、
私に背中を向けたままコックリと頷くと、スーッと消えてしまいました。

その瞬間、
再び怖さが押し寄せてきて、
私は慌てて湯船からあがると脱衣所に駆け込むと、
ろくに身体も拭かず、濡れたままの身体に浴衣を身に付け、
部屋に飛んで帰りました。
もちろん
脱衣籠は私が使っているもの以外は、全て伏せられたままでした。

翌朝、
ホテルの方に
「昨夜は何人宿泊されてたんですか?・・・と尋ねると、
「昨夜は、おなた方お二人だけでしたよ」・・・と、そっけない返事

でも、
私はハッキリと覚えてるんです。
女性の悲しそうな後ろ姿、浮き出ていた背骨、
肩位の髪を一つにまとめていたバレッタの色とデザイン・・・

今でも営業してますよ、このホテル。
五階建て位だったかなぁ〜?!