「黒い人影」 
ミコちゃんの投稿
 (投稿原稿の内容を尊重しつつMoMoがリライトいたしました)


都会ではどうなのか判らないんですが、
私の地方では回覧板というのがありまして、
市や町内会からの連絡事項が書かれてあって
読んだらサインをして隣の家に持って行くんです。

私が中学生だった時の夏休み、
お隣に回覧板を持って行ったんです。

「こんにちは〜、回覧板です! こんにちは〜!」

玄関を叩きながら声を掛けたのですが応答がないので、
いつものごとく、ドアを開けて家の中を覗いたんです。
当時の私の町では
治安が良いといえば聞こえはいいのですが、
昼間なら外出する時も鍵を掛けない様なノンビリした地域なんです。

で、
田舎の家なもんで
玄関に入ると茶の間の様子が伺えるんです。
 (ハッキリと見えるわけではないですが)

「こんにちは〜、回覧板ですけど・・・」

少し身を乗り出しながら茶の間を見ると
茶の間の壁に人影が動くのが映っていたんです。

なんだ・・・、
いるんだったら返事ぐらいしてくれればいいのに・・・と思いながら

「回覧板、ここに置いておきますね。」

・・・と言って家に帰ったんです。

「母さん! お隣さん、家にいるのに返事もしてくれいんだよ」

「どうして、家にいるって判ったの?」

「へへぇ〜、カギ開いてたから、玄関に入っちゃった。
 そしたら、
 茶の間に人影があって・・・はんてんを着た男の人だったよ。」

「はんてん? この真夏に?」

「えっ・・・・」

考えてみると、
真夏にはんてんを着てる人なんているはずがありません。
昼間の明るい部屋の壁に影が映るはずもないし・・・。
第一、
お隣には男の人はいないんです。

私が呆然としていると、
母は

「あんたは小さかったから憶えてないだろうけど、
 お隣のご主人さん、真冬の寒い日に、
 コタツに入ったまま血を吐いて亡くなったんだよ。
 原因はよく判らなくてね・・・身体の丈夫な方だったんだけど。 」

それ以来、
私はお隣に回覧板を持って行かなくなりました。