「兵隊さん」 
大和魂さんの投稿
 (文章の一部について、MoMoが加筆修正いたしました)


私は、とある老人施設で働いております。
昨年の夏、
私はその日、夜勤についていて、
深夜一時過ぎ、トイレ介助からセンターに戻るときのことです。

認知症の88歳女性Aさんの部屋の前に差し掛かったとき
中から声が聞こえてきたんです。

「・・・・さんが・・・・・隊さんが・・・』

何かあったのかと、私はAさんの部屋に入り

「Aさん、どうかされましたか?」
「兵隊さんが還ってくるんじゃ・・・兵隊さんが・・」

認知症では若い頃の事は鮮明に覚えているものなので、
私は、昔の事を思い出しているのだろうと思い、

「こんな夜中じゃ、兵隊さんも疲れてて来ませんよ。」
「いや、連絡があったんじゃ!」
「連絡ですか?」

認知症は不安から来ることもあると言われています。
随分、興奮されている様子でもあったので
私はしばらく話を聞きながら、Aさんが落着かれるのを待ちました。

「Aさん、それじゃ〜、もう夜も遅いしそ、ろそろ寝ましょうか。」
「あ〜、そうじゃな」

その時、
廊下に数人の足音が響き渡ったんです。

カツゥーン、カツゥーン、カツゥーン

私は言いようの無い恐怖を感じました。
私達スタッフはスニーカー、お年寄りの方々は介護靴を履いているため、足音が廊下に響き渡るなんてことはありません。

まっ、まさか、
これは軍靴の響く音なのか?
本当に兵隊が来たのか?

カツゥーン、カツゥーン、カツゥーン

足音はどんどんこの部屋に近づいてきます。
私は言葉も出ません。

カツゥーン、カツゥーン

この部屋の前で足音が止まりました!

「ほら、兵隊さんが還ってきたんだよ。」
「ま・・・まさか・・・」

私は怖る怖るドアを開けました。
・・・が、
廊下には誰もいません。

ふぅ〜・・・何だったんだ、今の音は?

「Aさん、誰もいませんよ。さぁ、もう寝ましょう」

そう言いながら振向いた私の目に飛び込んできたのは
Aさんのベットの周りに立つ3人の兵隊の姿でした。
枕元の兵隊は生前の姿そのままで、
ベットサイドの兵隊は、ボロボロの身体で左腕がありません。
足元の兵隊も衣服が激しく損傷したうえ頭部がありません。
そして、
枕もとの兵隊がAさんに耳打ちするような格好をとったかと思うと、
次の瞬間、3人はスゥ〜と消えていきました。

翌朝、
Aさんは静かに息をひきとられました。
後日、
先輩に聞いたのですが、
Aさんは先の戦争で、長兄、次兄、弟を亡くされていたそうです。