「仏壇屋」
ayamaiさんの投稿
(投稿原稿の内容を尊重しつつMoMoがリライトいたしました)


今から30年程前、僕がまだ学生の頃の話です。
当時、
僕は友人と2人で仏壇屋でアルバイトをしていたんです。
仕事の内容は 
仏壇の配達と設置や古い仏壇を引き取りが中心 
力のいる辛い仕事だったのですが、時給が高く満足してました。

夏休みのある日の事、
社長から時給倍額にするからと、ある仕事を頼まれたんです。
その仕事というのは、
引き取ってきた古い仏壇を破砕して 
市営のゴミ焼却場へ持っていくというものでした。
(期間にして二週間前後)

仏壇を壊すなんて、何だか気の進まない仕事だったのですが、
1日1万円以上(10日で十万円以上)の収入の誘惑に負けて
友人と2人で引き受けることにしたんです。

翌日、
私達2人は、引き取った仏壇を置いてある倉庫に行きました。
倉庫は建坪40坪余りの二階建て。

中に入ると倉庫内は薄暗く、
中の空気は煤けた木の臭いと線香の様な香りでむせ返り
ホコリだらけ仏壇が所狭しと床から天井まで積み上げられています。
中には相当古い仏壇もありました。

私達2人は
一時は高い時給に目がくらんだものの
積み上げられた古い仏壇の佇まいをみると
さすがに、ご先祖様を長い間祀っていた仏壇を壊す気にはなれず、
・・・というか、
無性に恐ろしくなって(罰が当たる?)、
社長に「やっぱり出来ません」と言いにいったんです。
すると社長は
「お坊さんが、ちゃんと魂を抜いてくれているから大丈夫」・・・と。

結局、
私達2人はその日から仏壇の解体を始めたんです。
初めは恐る恐る、祈りながらしていた仕事も
一週間も経つと慣れてきたというか、感覚が麻痺してきて、
手っ取り早く仏壇を解体するコツも掴んできました。
つまり、
仏壇を持ち上げて一気に床に叩きつけるとタガが緩むので
後はハンマーで軽くたたくだけで簡単に解体できるんです。
初めの頃は、仏壇を叩きつけるなんて、とても出来なかったのが、
慣れとは怖いものです。

その日も
例のごとく仏壇を床に叩きつけ解体していたのですが、
ある古い仏壇を床に叩きつけた時、
何の拍子か仏壇の引出しが開いて、
中から入れ歯が転がり落ちたんです。

「うわぁ〜!」

僕達2人は思わず飛び退きました。

「な・・・なんだ、入れ歯か〜。
 驚かせやがって。これも捨てるんだよな?!」

友人がそう言い
入れ歯を仏壇の残骸の山に、ポーンと蹴り入れようとした瞬間、

突然、
入れ歯が、カチカチと歯を合わせながら 
友人の顔に向かって飛び掛かって行ったんです。
友人はとっさに避けたのですが、
床に落ちた入れ歯は、次に飛び掛るチャンスを伺うように
カチカチと歯を合わせながら床の上を蠢いています。

「うわぁー!」
 
私達2人は仕事を放り出して一目散に外に逃げ出しました。
その後、
私達はそのままアルバイトを辞めました。

おそらく、
仏壇の中にまだ魂が残っていたのではないでしょうか。
私も今は50歳近くなりましたが 
あの夏の体験は今でもはっきり覚えております。