「明け方に」
内藤さんの投稿
 (文章の一部について、MoMoが加筆修正いたしました)


福井A温泉のSという旅館に妻と2人で泊まった時の不思議体験です。

やけに安いプランがあったので申し込んだところ、
通された部屋は何年も使っていない様なホコリっぽく汚い部屋でした。
畳の汚れを隠す様に上からゴザが敷かれ、壁はシミだらけ。
洗面所の奥がバスルームの様なのですが、扉は固定され開かなくなっていました。

私達2人とも霊体験などとは縁が無かったため

「ここで自殺した人がいて、ゴザをめくると人の形の血痕がある」
「壁の赤いシミは血飛沫の跡」

・・・と、
ふざけあっていました。

私達は温泉に入った後、夕食をとったのですが、
湯冷めでもしたのか私の体調が悪くなったので、
2人して早々と床に就いたんです。
私と妻は背中合わせで、
私は廊下側の襖に、妻は窓側の障子戸に向かって寝ました。

ビールを飲みすぎたのか体調のせいなのか、
私は11時、1時、3時と、2時間おきに目を覚ましトイレに行きました。

その後どの位経ったでしょうか、
「バタバタバタ!」
・・・とスリッパで走り回る騒がしい音で私は目を覚ましました。
うっすら目を開けると部屋の中がやや明るく感じたので、
多分明け方だと思います。

私はそのまま寝ながら耳に入ってくる音を聞いていたのですが、
どうやら女の子がキャッキャとはしゃぎながら、
スリッパを履いて板の廊下を行ったり来たりしている様です。
お母さんらしき女性の声も聞こえまてきました。

その物音、声がやたらと近くから聞こえくるのが気にはなりましたが

「随分早い時間に出発なんだなあ〜」

という位に軽く考え、布団の中でまどろみながら朝を迎えたんです。
ところが、
朝起きてよく考えてみると不思議なのです。
部屋の外の廊下は絨毯というかマットの様な感じなので、
板の上を歩くような「パタパタッ」という音は出ない筈なのです。

床が板の場所といったら、
部屋の入口から私達が寝ている和室の襖までの間だけ・・・。
そう、
明け方の足音や声は私の目の前から聞こえてきていたのです。

私は妻を怖がらせるといけないと思い、
その事については妻には黙っていたのですが、
朝食を食べている時、妻がこう切り出したのです。

「あなた、あんなに朝早く起きて何してたの?」、

妻が言うには、明け方にふと目を覚ました時、
誰かが障子戸を開けて奥(冷蔵庫とかテーブル、椅子が置いてあるスペース)に行ったというのです。
妻は私が飲み物でも取りに行ったのかと思ったそうです。
しかし、
私は明け方には一切布団から出ていません。

私は明け方の出来事を妻に話しました。
おそらく彼女が見たものは私が聞いた声の主だったのかもしれません。
ただ、
怖い感じはしませんでした。

旅館そのものは全然良く無くって残念でしたが
初めて霊体験をした満足感を抱いて旅館を後にした二人でした。