「かりかり」
香川県Y島 某旅館
わやちゃん@ガイドさんの投稿です。
(原文のまま)

私は以前、某バス会社でバスガイドをしていました。
あれは入社して一年目、
ようやくガイド業にも慣れてきた時期だったと思います。

その日の乗務は二台連呼(バス二台で)
二泊三日の四国八十八箇所巡りの旅でした。
当時、私は寮に入っていたのですが同室の先輩が
「明日、あのツアーの仕事みたいだけど・・・これ持っていきなさい」
・・・と数珠をかしてくれました。
「先輩、何かあるんですか教えて下さい!」
「・・・仕事に差し支えるから今はしゃべれない、ごめんね。」

当日の宿泊先は香川県Y島(源平の古戦場近く)の旅館でした。
その日は天気があまりよくなくて
空にどんよりと灰色の雲が覆ってたのを覚えています。
もう一台のガイドは私と同期で、
やっぱりその子も同室の先輩にお守りを持たされたそうです。

私たち二人が通された乗務員用の部屋は
一番端の部屋で珍しくお風呂も付いていたのですが、
使用できず浴室に続く戸には開けられないように
釘が打ち込まれていました。

食事は運転手さんの部屋で皆ととり、
自分たちの部屋に戻ってきたのは十時頃だったと思います。
明日の朝も早いということで、もう寝ようということになりました。
私、恥ずかしいことに結構寝言を言うらしいので同期の子に
「もし寝言いったらごめんね」と先に謝りました。
するとその同期の子も
「ううん、私も歯軋りするかも・・・」
二人でお互いの癖をクスクス笑い合いながら眠りにつきました。

・・・かりかりかり・・・

どれくらい眠っていたのか
その音が聞こえてきて私は眼を覚ましました。
暗い部屋の中、かすかに聞こえるのです。

かりかりかり・・・なにか引っかくような音。

私はてっきり、同期の子の歯軋りだなと思って
だんだん暗さに慣れてきた眼でその子を見ました。
でも
その音は歯軋りじゃなかったんです。
その子の口はしっかりと閉じられ静かな寝息を立てていた。

じゃあ、この音は?

よしとけばいいのに私は聞き耳をたてました。
その音は、使われていない浴室の戸から聞こえましたのです。

かりかりかりかり・・・・

私は怖くなって頭から布団をかぶり
先輩が持たせてくれた数珠をしっかり握りしめ寝ました。

その後、
ツアーから帰ってきた私に先輩が教えてくれました。
そこの旅館の乗務員部屋はいわゆる出る部屋なのだと・・・
私は音だけだったけど、先輩は・・・みたそうです。
後日談ですが
同期の彼女も、あの日、同じ音を聞いたそうです。