「主の去った家で」
兵庫県のNさんの投稿
 (文章の一部について、MoMoが加筆修正いたしました)

この話・・・
霊現象とか不可解な現象…というのとは違って、
現実の・・・そう私達人間の中に棲む残虐性への恐怖・・・
ちょっとエグイ話でもありますが・・・・

・・・・・・・

ある大手の引越し業務社で働いている友人の話です。

友人はこの会社で、実際に引越しの荷物を運搬したり、
その他、主が引っ越したあとの家をハウスクリーニングしたり、
・・・・といった仕事をしています。

これらの仕事は、何かとトラブルが起こり易いものです。
特に揉め事が多いのはハウスクリーニング。
というのは、
引越しの場合は、その多くはお客さんが現場に立ち会うので、
行き違いやトラブルがあっても、その場で話をしてスグに解決、
・・・・と、スムーズに事が運び易いんです。
ところが
ハウスクリーニングになると、
家主が引っ越して何日〜何ヶ月後になっての作業が多いので、
空き家となった家の中で何かが起きていても、
すでに引っ越してしまった家族に問い合わせると
「私たちじゃない」
「私は知らない」
・・・・など返事をされて、
業者としては立ち往生してしまうことが、ままあるのだとか。

そんな揉め事で特に多いのが、犬や猫などペットの遺棄だそうです。
それまで飼っていたペットは新しい引越し先に連れて行けない。
新しい飼い主は見つからない。
捨てることも近所の目があってできない。
保健所に連れて行くのも「可哀相で出来ない。」
・・・で、
思いあまって、出て行く家に置き去りにしてしまうというパターン。

空き家に閉じ込められた犬や猫達は、
しばらくは飼い主の置いていったエサや水で生きていきます。
しかし、
やがてそれも尽きます。
飢え乾いた彼らは死に物狂いでエサを探し水を探し、
家の中じゅうをひっかき、とびつき、歯をたて、
暖房も冷房も水も止まった空き家のそこらじゅうを傷だらけにしながら、
やがて息絶えてしまいます。

何ヶ月後、
こういう家をクリーニングのために訪れた者が見る光景は、
家中にひろがる耐え難い悪臭・・・
床、そして床から1m辺りまでの壁一面ひろがるかきむしりの痕跡、
(犬や猫達が幾らもがいても、爪を立てられる高さは限らるので・・・)
また、
冷蔵庫が置き捨てされていたりすると、
その冷蔵庫を何とかこじ開けようとするのか、
その扉は爪や歯で傷らだけ・・・(中には何にも入ってないのに・・・)。
水道の蛇口も
何とかして水を出そうとしたのか、鉄の蛇口に歯の跡。
爪で掻き毟ったいたる場所にこびりついた大量の血。

そして、
糞便と血をにじませて、ボロ雑巾のように床に転がる、
ひからびてミイラ化した小さな犬や猫の死骸。
彼らのほとんどは、
栄養失調と水分不足から極度に衰弱して、
嘔吐と下痢を繰り返し、家中に排泄物をまきちらしながら、
地獄の牢獄と化した空き家の中で孤独に悶死していくといいます。

ハウスクリーニングのために
ある家を訪れた友人とその同僚たち数人は、
そこでまたしてもそんな風景に出くわしてしまったそうです。
すさまじい悪臭、
床や壁の下部一面にひろがるかきむしりの痕跡と血痕と糞便。
キッチンに置き去りになった
古い冷蔵庫の扉にたてられた無数の歯形。

そして、
彼らは見てしまったのです。

リビングとおぼしき部屋の真ん中、
カラカラの糞便にまみれ、ツメを床に食い込ませ、
悲しみと憎しみに口をゆがませ、
涙の乾いた跡の残る両目を見開いたまま、
真っ黒にひからびて横たわる・・・・・・

小さな、小さな、本当に小さな、人間の幼児のミイラを・・・・・。