「レンタルマット」
ramboさんの投稿
 (投稿原稿の内容を尊重しつつMoMoがリライトいたしました)

以前、
私は大阪が本社で、
【愛】という言葉が大好きな某有名会社に勤めていました。
 (玄関マットやモップをレンタルする会社です。)
得意先は多様な業種になります。
これは大阪から東京に転勤になった頃のお話しです。

東京に転勤してからまもなく、
通称ナイト≠ニ呼ばれる「夜の店、風俗店専門のレンタル部隊」の
TOPに任命され、昼はパートの管理、夜はナイトと忙しい毎日でした。
ある日、
ナイト担当のアルバイトが休んでしまったので、
私が急遽レンタルに出かけた時のことです。

そこは東京の歓楽街としては小さな地域なんですが、
(JR総武線の千葉よりのとこです)
6階建てのビルの5階までにスナック等が入っていまして、
2階・3階・4階・5階の各お店がお客様でした。
そして6階は開かずのフロア・・・。
エレベーターは6階のスイッチは押せなくしてあり、
階段にも立ち入り禁止のチェーンが張ってあります。
なんでも、幽霊が出るとか・・・・。

また、
このビルの5階の店のマスターが変わりものでして、
通常マット交換は店が始まる前にするものなんですが、
「店が終わった後にしてくれ」と言って譲らないんです。
まぁ〜閉店が深夜0時と早いことと、
お金とマットを入り口に出しておくという約束で了解したのです。

さて、
2階〜4階を終え、
他のお店を回り0時ちょっと過ぎ、エレベーターで5階に向かいました。
ところが
ドアが開くと、いつもと様子が全く違うのです。
「あれ?」っと思って振り向くと、エレベータの表示は6階!!
「そんな、6階のボタンは押せないのに???」

ちょっと不気味なので、
階段を駆け下りようとした時です。

「おにいさん!」

いきなり後ろから大きな声で呼ばれて、ビックリして振り向くと
30代前半くらいの色白の女性が立っていました。
ビックリするほど色が白くて、とても綺麗な人でした。
でも、
エレベーター前から階段の間には女性が隠れる場所はないんです。
「一体、どこから現れたんだ?・・・・まさか・・・幽霊・・・??」

「おにいさん、レンタルマットの人よね。
 私、ここで店始めるの、マット残ってたら置いて行ってくれない?」

「あっ・・はい、ありがとうございます。(よかった、人間だ・・・)」

色々と話をしてみると
金額を高くても、豪華な感じのマットが良いということなので、
後日改めて商品をお持ちするということで、その日は帰りました。

そして
5階に降りて行くとマスターが丁度帰るところで…。
「久しぶりだな! 6階に何か用でもあったのか?」
マスターは新しいマットを店に投げ込むと、
何か言いたげに、私の顔をチラチラと見ていたのですが、
首を振りうつむくと無言で帰って行きました。

数日後
アルバイト君にちょっと豪華マットを持たせ、
6階の新しい店に行かせました。
0時少し前、バイト君から連絡が入りました。

「すいません、○○ビルの6階ですよね?」
「そうだよ!不機嫌マスターの上」
「あの〜何もないんですけど…」
「ん?無いって???」
「お店…無いですよ!」
「今日は休みじゃないのか?」
「いや、お店自体が無いんです!」
「どういうこと?」

彼が言うには、
エレベーターでは5階までしか行けなくて、
6階には階段で上がったそうなんですが店がない。
ただ
左の方にドアがあって、黄色のテープで封印されいるとか・・・。

嫌な予感がしたので、
バイト君には、そのまま帰宅させ、
私はそのビルに急ぎました。
なぜか約束の豪華なマットを持って・・・・

ビルに着いて、
エレベーター横のテナント一覧を見て、郵便BOXを見ましたが、
確かに6階には店舗の表示は無く、
ポストもガムテープで塞がれていました。

エレベーターに乗ると、
ボタンも押していないのに上へ!
そして、
6階で扉が開いたのです。
恐る恐るエレベーターを降りと、左の少し開いたドアから薄明かりが漏れています。
持っていたマットを入口に置き、ドアの中に入ると…。
薄暗い明かりの中、彼女がいました。
カウンターで一人泣いているようでした。
話しかけようとすると…

「エレベーターに乗って来る人で優しそうな人をみつけては、
 6階で降ろして声をかけていったんだけど、
 ちゃんと振り向いてくれたのは、お兄さんだけだったわ。
 でも、甘えて、迷惑かけるわけにはいかないもんね。
 ごめんなさいね・・・今、マスター呼んだから…」

きょとんとしていると
5階のマスターがやって来ました。
「お前・・・・彼女が見えるのか?」
「え・・・あ・・・はい・・」

マスターの話では
この女性は、6階てお店を開くことになっていたんですが
悪い男に騙され、多額の借金を背負わされた上だけでなく、
開店資金まで持ち逃げされ、一年前にここで自殺したのです。
それからというもの
6階のフロアは、
借り手がつく、幽霊騒ぎですぐ出て行く…の繰り返し。
霊感の強い5階のマスターが
彼女を鎮めるために、時々話し相手になっていたとか・・・

彼女は、ふいに

「ありがとう」

・・・と言うと、スゥーと消えていきました。

気がつけばガランとした部屋になぜか不似合いのマットが一枚。
ドアは開いていて淵に黄色のテープが。
なんか悲しい気持ちのまま外に出ると綺麗な紫色の朝焼けでした。