「浴場にて」
岩手県 S


私たち添乗員や乗務員(ドライバー、ガイド)が
ホテルや旅館に宿泊した時に霊に遭遇する場所といえば、
乗務員部屋または客室というイメージが強いかと思いますが、
大浴場や露天風呂等、風呂にまつわる体験談も非常に多いんです。

特に、
私たち添乗員は何らかのトラブルがあったり、
お客様がホテルの外に出かけて帰りが遅かったりすると、
入浴が深夜になってしまう事が少なくないからかもしれません。

深夜のお風呂は
人がほとんどいないためノンビリ出来るのは確かですが、
やはり一人っきりというのは寂しいもので、あまり気持ちよいものでは
ありません。

今回の話は、
そんな深夜の大浴場での私の友人(女性添乗員)の体験談です。

舞台となったのは岩手県にあるSというホテル。
四季折々の自然と食事を楽しめる事がウリの和風旅館です。

その日、
彼女が浴場に向かったのは深夜一時近くになってからでした。

(こんな時間だから、大浴場は私の貸切だろうな・・・たぶん)

そう思いながら浴場に入ってみると、
浴室には3〜4才の子供2人とお母さんが入っています。

(へぇ〜、こんな時間に子供連れなんて???)

はじめはビックリした彼女でしたが、
その子供達がすごく人なつっこくて可愛いく、
一緒にオモチャでブクブクの泡を作ったり、歌を唄ったり・・・と、
彼女は子供達と遊ぶことで結構癒されたそうです。
(お母さんは随分気を使っている様子だったそうですが)
彼女が先に上がる時にも

「お姉ちゃん、バイバァ〜イ! また遊ぼうねぇ〜」
「うん、またねぇ〜」

彼女は子供達に手を振りながら浴場を出たのですが
ふと、
洗顔フォームを浴室に忘れてきた事を思い出したんです。

「ごめんねぇ〜、お姉ちゃん、忘れ物しちゃったぁ〜・・・」

彼女がおどけながら浴場に戻ると、そこには誰もいないのです。

「あれっ・・・・?!」

視力の悪い彼女は
湯気で親子を見失ったのかと、
浴場の中まで入りましたがやはり誰もいません。
脱衣場以外に出口はないので、
もし風呂を出たのであれば彼女が気づかないはずはありません。

「じゃぁ・・あの親子は・・・」

彼女は急に恐ろしくなり、
大急ぎで服を着て部屋に逃げ帰ったそうです。

後になって考えてみると、
彼女が入浴している間中、あの母親は髪を洗い続けていたし、
子供達も一歩も湯船から上がっていません。

「どう考えても、普通じゃないわ・・・・」

彼女は湯気が立ち込める浴場内で、
コンタクトを外したままの目で本当は何を見たのでしょうか。