「ゲームコーナー」
静岡県 ホテル某


このホテルは家族連れにも人気のリゾートホテルです。
ですから、
ホテル内のゲームコーナーも結構充実していて、
子供達の格好の遊び場となっています。

地元の商工会の慰安旅行に添乗して、
このホテルに宿泊したときのことです。

夜12時過ぎ、お客様の2次会の付き合いが終わり、
部屋に戻ろうとゲームコーナーの前を通ると・・・、

既に真っ暗になった
ゲームコーナーの中で一台だけ灯りを放っています。

ピコピコ、ドカァーン、ジャァーン

・・・というゲームの音も聞こえます。

「こんな時間に、それも一台だけ・・・??」

見ると、
小学校3〜4年生位の男の子が2人、ゲームをして遊んでいます。
真夜中だし、ゲームコーナーも終わっている時間なので、
部屋に帰るように言わないと・・・と男の子達に近づいていくと、
1人の男の子が私に気づいたのか、嬉しそうに走ってきて

「お姉ちゃん、両替してください!!」

私たち添乗員は一般的にはスーツを着ているので、
ホテル内を歩いているとホテルの人とよく間違えられるのです。
(たまぁ〜に、ガイドさんに間違えられることもありますが・・・)

「ごめんね、
 お姉ちゃんね、スーツ着てるけどホテルの人じゃないのよぉ。 
 それより、
 こんな遅い時間にゲームしてたらダメなんじゃないかなぁ?!」

「うん、でも・・・ここで待っててって・・・」

「お母さんが?」

「ううん、お母さんはお墓・・・」

「あっ・・・ごめんね、
 悲しいこと聞いちゃって、じゃぁ、お部屋は何処かな?」

「わかんない」

うぅ〜ん、困ったわねぇ。
とりあえず、フロントで聞いてみるか・・・そう考えていたとき、

「そこで、何をされているのですか?」

・・・と
声をかけられ振り向いてみると、守衛さんが立っています。

「あぁ〜、ちょうど良かった・・・実は・・」

・・・と
次の瞬間、2人の男の子が

「わぁ〜!」

・・と、
はしゃぎながら逃げていったのです。

「あっ、僕たち、ちょっと待って!!」

私が追いかけようとすると、
2人はそのまま反対側の壁をすり抜けて行ったのです。

「守衛さん、今の!!」

「さ、さぁ・・・私は何も見ませんでしたよ」

「見ませんでしたって・・・今、そこの壁に・・・」

「私は子供達なんか・・・何も・・・何も見ていません」

そう言うと、
守衛さんは足早に戻っていきました。

その晩、
私は・・・自分の部屋に帰らず、
ガイドさんの部屋で一緒に寝ることにしました。

翌朝、
チェックアウト前にゲームコーナーを覗いてみると、
昨夜男の子達が遊んでいたゲーム台だけ電源が入っておらず、
「故障中」の張り紙が・・・・・