「橋の上の女」
岐阜県 某温泉


温泉街っていうと、
独特の風情を持った橋がかかっていて、
何ともいえない温泉情緒を醸し出していますよね。
外湯巡りをする温泉客の格好の散歩コースにもなったりして。

この温泉郷にも
そういった風情のある橋が幾つも架かっているのですが、
その一つの橋に出るというのです・・・芸者さんの霊が。

深夜、この橋を通りかかると
酔い覚ましでもしているかの様に川面を見つめながら
橋の上に立たずんでいる彼女に出逢えるといいます。
目撃者の話では、かなりの美人だそうで、
その憂いを帯びた横顔に、男性は瞬く間に虜になってしまうとか・・・。

酔っ払い客にからかわれると
威勢よく怒鳴ってみたり、(かっこいいかも)
また、
ちょっと好みの男性がいると、
しなだれかかって腕を組んだり、(艶っぽいかも)
・・・と、
とても霊とは思えないような、豊かな表情振舞いを見せるそうです。
ただ、
この芸者さんの霊は橋から離れることが出来ないのか、
橋の外に出るとはスッと消えてしまうというのです。


この噂・・・
実は随分前から聞いてはいたのですが、
実際に見たって人の話を聞いたことが無かったんです。
でも、
つい先日、後輩のO島君が彼女に出逢ったんです。

その日、
彼はお客様のお付合いで、ホテルの外のお店に飲みに出たそうです。
(社員旅行等の添乗では、コレも営業活動の一つなので・・・)
そして、
彼がこの橋を通りかかったのは深夜一時過ぎ・・・
幹部クラスの方数名とほろ酔い気分で歩いていました。

見ると、
橋の中央に芸者さんが何をするでもなくボォーと立っています。
彼等が橋を渡り始めても
彼女は全く動かず、その場に立ちつくしたままです。
見ようによっては、こちらの様子を伺っている様にも見えます。

「この芸者さん、酔ってんのかな?」

そう思いながら、
彼をはじめお客様方も彼女を避けるように橋の端側に寄ったのです。

「エライ美人の芸者さんやなぁ〜」

彼等はすれ違いざまに彼女の顔を見て、口々にそう言うと
今度は後姿を拝もうと、申し合わせたように一斉に振向いたそうです。
すると
一番後ろを歩いていたお客様の一人が、
そのまま橋の中央を歩き続け、彼女の身体を通り抜けたんです。

「うわぁー!」

彼等が悲鳴をあげた瞬間、
芸者さんの首だけがエクソシストの様にギリッ・・ギリッ・・と回転して、
彼等の方に向き直ったんです。
その顔は先程の美しさとはうって変わり、
目が真っ赤に燃えた般若のような形相になっています。

「うわぁー!!」

一気に酔いが醒めた彼等は、
一目散にホテルに逃げ帰ったそうです。

ホテルに帰ってから、
O島君は先の噂を思い出したそうですが、
噂のイメージとは違ってある種の怨念めいたものを感じたそうです。
ただ、
美人という点については、噂以上だったとか。


ちなみに
この芸者さんの霊は女性には見えないとか・・・・。
ふぅ〜ん・・・
じゃぁ、私には見えないんだぁ〜・・・チッ