「背中」
愛媛県 ホテルK

今回の話は、
霊現象というよりは妖怪、もののけの類の話かな・・って感じです。

いつもお世話になっているお客様のTさん(50代男性)の体験談です。

12〜3年前のこと、
社員旅行でこのホテルを訪れていたTさんは、
深夜1時過ぎに大浴場に向かいました。
実はこのホテル、夜中の12時前後に男女の浴場を入れ替えるのです。
ですから、宴会前に入浴したお客様が、
寝る前に入浴する際に誤って反対の方に入ることも多いのです。
つまり、
Tさんも若い女性が間違って入って来ることを期待していたわけです。

ところが (案の定?) 、浴場には誰一人いません。

「まっ、そうだよな、真夜中だし・・・」

ガッカリしながら湯船に腰を落としていると、
脱衣場〜入口のほうから人の気配がします。
見ると、24〜5才の髪をアップにした美しい女性が立っています。
女性はTさんを見ると、少し驚いたような表情を浮かべましたが、
意を決したように

「失礼いたします。」

と言って、
Tさんのすぐ近くに背を向けて湯船に入ったそうです。
Tさんは色々と女性に声を掛けてみましたが、
その女性は話すでなく話さないでなくといった感じで、
恥ずかしげに小声で頷くばかりでした。

「これは、脈がないかな?」

Tさんがそう思い、湯船から上がろうとした時、
おもむろに女性がTさんの方に向き直り、口を開いたのです。

「もし、よろしければお背中流させて下さい。」

Tさんは小躍りしたい気持ちを抑え、冷静な口調で

「それは、うれしいですね。 よろしくお願いします。」

そう言って、女性に背を向けました。
女性は艶かしい手つきでTさんの背中を流すと、

「あのぉー、私の背中も流してくださいますか?」

Tさんはもう大喜びで、女性の背中を流し始めたんです。
Tさんはさりげなく手を前に回し女性の胸に触れてみたのですが
女性は嫌がる様子もなく、

「あのーすみません、少し強く・・強く・・していただけますか。」

Tさんが、少し強く背中を流すと

「あぁーん、気持ちいいぃ〜、もう少し、もう少し強く」

・・・と、鼻にかかった声をあげます。

「よし、もう少し強くだね。」

Tさんがタオルに力を込めたその瞬間、
なんと、女性の背中の肉がボロッと剥がれ落ち、
背骨と内臓がむき出しになったのです。

「ギャァーー!」

Tさんは思わず悲鳴をあげました。

「どうかしましたか?」
「ギャァーー!」

Tさんは振り向いた女性の顔を見て、また悲鳴を上げました。
その顔は右半分が腐って骸骨化していたのです。

「た、た、助けてくれぇー!」

Tさんは、浴衣を抱えて一目散に自室に逃げ帰ると、
カギを閉め、部屋中の電気を点け布団の中にもぐり込みました。
Tさんの取り乱しように目を覚ました同室の友人達が、
怖がるTさんに事情を聞いて、風呂に見に行った時には
既にその女性の姿は消えていたそうです。

酔って幻でも見たのか、湯船でウトウトして夢でも見たんだろう
・・・と、友人達はTさんを笑ったそうですが、
Tさんは、今でも、その女性の霊(妖怪?)に出会ったと信じています。