「飾り屏風」
新潟県 某有名温泉
他館先としてよく使われる某民宿

私達添乗員は、
必ずお客さんと同じホテルに泊まるのですが、
ドライバーさんやガイドさんは、
シーズン中でホテルが満室だったりすると、
ホテル指定の別の民宿に泊まる事が少なくありません。
私達は、これを「他館=タカン 」とか「放り出し」とか言ってます。

今回の話は、
昨年末、神戸市内の某自治会の懇親旅行でY温泉に行った際、
ドライバーさんが他館先で遭遇した怪奇現象です。

彼が他館先で通された部屋は十畳程の明るい和室。
床の間には、高さ1m、横1.5m位の少し古びた飾り屏風。

「へぇ、床の間に飾り屏風とは・・・風流だねぇ・・・」

その古びた飾り屏風は、
浮世絵風の美人画が描かれたもので、
女性の傍らに俳句らしき文字が添えてあったそうです。
 (でも、行書で達筆すぎて読めなかったとか・・・・・)

「結構、値打ちもんだったりして・・・・」

・・・・とはいえ、
その手の骨董品に興味のない彼は、
テレビを見ながらビールを飲み始めたそうです。
しばらくの間、
そうやって過ごしていた彼は
急に背中に冷たい視線を感じて振り向いたんです。
そこには飾り屏風が・・・

「まっ、気のせいか・・・」

テレビに視線を戻して数分後・・・
彼は、また背中に視線を感じて振り向いたんです。

「おいおい、
 屏風の女性が抜け出してきて・・・なんてヤメてくれよぉ」

冗談めかしにつぶやいてみたものの、
何ともいえない不気味な空気が漂っている感じがして、
ビールを一気にのどに落とし込んで、
持ってきていた数珠を手に巻いて床についたそうです。

深夜、
何時頃でしょうか・・・
ゴソゴソ・・・・ゴソゴソ・・・・・という物音に彼は目を覚ましたんです。

そう・・・・床の間の飾り屏風の辺りから音が聞こえるんです。

ゴソゴソ・・・・ゴソゴソ・・・・・

暗がりの中、
恐る恐る飾り屏風に目を向けると・・・、

なんと、
日本髪を結った女性の生首が屏風の上に浮いていたんです。
ボォーと青白く光り、口と両目の目じりから血を流しながら、
何かを訴えるような目で彼を凝視していたのです。

「うわぁーー」

ドライバーさんは、
悲鳴をあげて飛び起き、部屋の電気を点けました。
部屋が明るくなると、その生首は消えていたそうです。

彼は、そぉーと、床の間に近づき飾り屏風の裏を見たのですが
床の間の壁と屏風の間は30cm程で人が隠れる事は出来ません。
もちろん、屏風も屏風の絵も全く変わりはなかったそうです。

彼は、
その晩、電気を点けたまま朝を迎えたそうです。