「つかまえた」
大分県 B温泉 
ホテルS

博多ドンタクに行ってきました。
もちろん、仕事ですよぉ。

まっ、MoMoの場合、
プライベートで、わざわざ人混みの中になんて絶対行きません。
デスクワークしてるときはともかく、
添乗に出ちゃうと、ズゥーと人混みの中ですもんね。

それはさておき、今回の話なんですが、
その時に出会った他のツアーの男性添乗員さんに聞いた話です。

半年ほど前のことだそうです。

彼はその日、
B温泉郷にある海沿いのホテルSに泊まったんです。
彼が案内されたのは、いわゆる乗務員室ではなく、
4階の一般客室。

一般的に乗務員は、乗務員専用の部屋に通されます。
まぁ、これが客室とは比べ物にならない程、安普請で貧相なんです。
エアコン、テレビ、バス、トイレが無いなんて珍しい事でもなく、
部屋にカギがないって事だってあるんです。

ですから、彼も一般客室に通されたとき、
「ははぁ〜ん、何か・・・、いわく付きの部屋かな?」
・・・って思ったそうです。
 (普段冷遇されているので、どうしてもそう思っちゃうんですネ。)

でも、彼が通されたこの部屋、
窓から海が一望に見渡せる明るく、さわやかな部屋だったそうです。
嫌な感じも陰気な感じもしない、ごくごく普通の部屋だったそうです。

「うん・・、これはラッキーかも・・・。」

さて、その彼・・・
宴会も終わり、お風呂から上がって、
彼は、部屋にある姿見の鏡の前で髪を乾かしているとき、
妙な事に気付いたんです。

その鏡は、海に面した窓にちょうど向かい合う位置にあるので、
鏡に映る自分の後ろには、窓が映っているんですが、
その窓の向こうに、なぜか海が映っているんです。

確かに窓からは海が一望出来るんですが、
この部屋は4Fなので
部屋の中にある鏡には夜空は映っても海が映るはずがないんです。

彼は振り向いて窓を見たんですが、
窓の向こうには夜空しか見えません。
しかし、
もう一度、鏡に目を移すと、やはり海が映っているんです。
しかも、
今度は、映っているはずの窓も部屋の壁もなく、
海だけが映っているんです。

彼は、もう一度振り向いたんですが、
やはり、そこには部屋の壁と窓とそして夜空が・・・・・・・・・。

「うそだろ・・・」

そして、
もう一度、鏡に目を移すと・・・・、
白いワンピースを着た髪の長い女性が、
彼の後ろに映る海の中から上がってくるところだったそうです。
(ちょうど、貞子みたいな感じだったそうです)

「これは、マズイ、逃げなくっちゃ・・・」

とは思うものの、
海から上がり、彼の背後にヒタヒタと近づいてくる彼女から、
目が離せなかったそうです。
そして、ついに、
彼女の白い腕が、彼を後ろから抱きしめてきたんです。

「つかまえた・・・」

そう言って、彼女は彼の肩越しにニッコリ笑ったそうです。

「トゥルルルル・・・トゥルルルル・・・」
その時、
部屋の電話が突然鳴ったんです。

瞬間、
彼女も鏡の中の海は消えてしまったそうです。

我にかえった彼は、
スグに、その救いの電話に出たそうです。

「もしもし・・・・、」

「おう、危なかったな・・・・」

その電話は、
男の声でそう言うと、そのまま切れてしまったそうです。

彼は、
鏡を見ないように荷造りをして、部屋を変えて貰ったという事です。