「死なせて・・・」


失恋の痛手を癒す為に、女ひとり、旅に出る。
・・・なぁーんて、ドラマによく出てきそうな感じですけど、
女性の一人旅っていうのは、
私達、旅行業界にとっては要注意なんです。
もの思いにふけっていたり、少し沈んだ感じがあったりすれば、
もう、もう、もう、最悪です。

どうしてだと思いますか??

そう・・・・、自殺なんです。
三段壁、東尋坊、親不知、樹海、etc............
景勝地 & 自殺の名所を抱えた観光地等では、
「女性のお一人の場合、予約がなければお泊め出来ません」
・・・・・という旅館(ホテル)も少なくありません。

シティーホテルの場合でも、
「思い出のこのホテルに泊まってから・・・」
・・・というパターンもあるので、その対応は似たり寄ったりです。

また、
女性一人旅の宿泊がある時のホテル従業員の緊張感は、
スゴイものがあります。
部屋で自殺でもされたら、それこそ大変ですし、
どこか別の場所で自殺したとしても、
最後に泊まったホテルという事で警察の事情聴取があるからです。

今回の話は、知り合いのガイドさんに聞いた話です。
ただ、彼女も「また聞き」の話のようで、
場所がハッキリと解らないんですが・・・・・。

その日、
ドライバーさんが通された部屋は、
いわゆる乗務員部屋ではなく、一般の客室だったそうです。
一般の客室が乗務員用として使用される場合は、
「いわく付」の部屋であることが多いので、(ヒドイ話ですよね)
彼も早速、額の裏、テーブルの裏、押入の中等を調べたそうです。
案の定、御札が・・・・・・・。

まっ、ジタバタしたも仕方ないし、
一応、御札があるから大丈夫だろうってな感じで、
さっさと風呂入って、食事してビール飲んで寝るぞって、
部屋を出たそうなんです。

約1時間半後、
戻ってきた彼が、部屋に入ろうとした時、

「コトッ」

誰もいないはずの部屋の中から物音がします。

「泥棒?」

彼は、気配を殺して部屋に入りました。
しかし、部屋の中には誰もいません・・・・・・。

「あれぇ、おかしいな?」

その時、バスルームから

「うっ・・うっ・・・・・」・・・という声が聞こえたんです。

恐る恐るバスルームの扉を開けると
血の海と化したユニットの床に女性が倒れてます。

「だっ、だっ、大丈夫ですか?」
「すぐに、ホテルの人、いや救急車、呼びますから・・・」

「いや、死なせて下さい」
「私を助けないで、このまま、ここで死なせて・・。」

改めて、あたりを見ると、
睡眠薬のビンにカッターナイフが落ちています。

「そうも、いきませんよ、すぐ、人を、救急車を呼びますから!」

しかし女性は
「いや、やめて死なせて・・・」と、叫びながら彼にすがりつきます。

彼が彼女の手を振切り、
フロントに電話をしようとバスルームを飛び出しました。

「もしもし、フロント?、今、僕の部屋で、女の人が・・・・」

「あっ、はい、承知しております。 すぐに伺います。」

「承知してるって!!、それじゃぁ・・・・」

電話を切り、バスルームに戻ると
そこは、きれいに清掃されたバスルームで、
血の海もなく、彼女もそこにはいなかったそうです。