「森に棲むもの」
T県 M温泉


会社のN先輩(男性)から聞いた話です。

N先輩が添乗業務でT県のM温泉に行った時のことです。


このホテル、
とても美しい自然の中に位置してます。

その日、
先輩が通された乗務員部屋は、
部屋こそ狭いものの、清潔でとても明るい部屋だったそうです。

ちょっとしたビジネスホテル程度の快適さです。


窓からの景色も美しくて、

「乗務員部屋とは思えないよなぁ〜、この部屋
 普通、きれいな景色が見える場所に乗務員部屋は作らないもんな」

・・・なんて思いながら、
窓を開けて、夕日に映える景色を眺めていたんです。

          
すると、少し遠くに見える山の樹木の中に、
何か白いものが

フワァ〜

・・・と、
浮かび上がって揺れているのが見えたんです。


「うん? 何だアレ?」

・・・と何気なく見ていると、

フラフラァ〜

・・・と、
漂うような感じで、
先輩が泊まっているホテルの方に近づいてきたんです。


「近づいて来るなぁ〜? 風船か? いや、鳥かな?」

先輩が興味津々と見ている間にも、
その白いものは少しずつ近づいてきます。


「何だろ? アレ?」

「うぅ〜〜ん・・・?」

「あっ! ああぁ〜! く・・首だ! 女の生首だ!」


その白いものは、
セミロングの女性の生首と両腕
(身体はないけど、何故か、両腕だけはあったそうです。)


そして、
彼がその正体に気付いた瞬間、

ソレは、もの凄いスピードで部屋に飛込んできたんです。


「うわぁーーー!」 


先輩は思わず、ひっくり返ってしまいました。


すると、
女の生首は、チラッと先輩の方に向き直ると

「ふっ」

・・・とほほ笑むと、
そのまま、女の生首はゆっくりとドレッサーの前に向かい

手櫛で髪をなで、

「にこっ」

・・・と
満足げに微笑むと、
今度は先輩に見向きもせず、スーッと窓から外に出て行ったそうです。

先輩は、
スグに窓を閉め、カーテンを引き、
その後は窓に近づきもしなかったそうです。


そして、深夜・・・

バァーン!!

先輩は大きな物音に目を覚ましました。


バァーン!!

バァーン!!


先輩は音のする方・・・窓に目を向ると

カーテン越しに、生首と両腕の影がハッキリと・・・


「入れろー! 中に入れろー!」

「鏡を見せろー!」


バァーン!!

バァーン!!


その後、一時間余り、生首は窓をたたき続けたのですが、
やがて諦めたのか、静かになったそうです。


そして、朝、
先輩が恐る恐るカーテンを開けてみると・・・

窓いっぱいに「手形」がついていたそうです。