「遊ぼ!」
島根県 T温泉


後輩のS君が、
添乗に出たときの体験談です。

午後5時頃
彼がホテル側との打合せのためロビーに向かっていたところ
何かが足にポンっと当たったんです。

「うん??」

見ると、
子供用の赤いボール。
人気キャラクターの絵が描いてあります。

そこに、
4〜5才位の女の子が走ってきました。

(あぁ〜この子のボールだな)
そう思った彼はボールを拾って、

「はい、どうぞ」

「ありがとう、お兄ちゃん。 ねぇ、お兄ちゃん、私とボール遊びしよ!」

「お兄ちゃん、今からお仕事なんだ、後でね。」

「うん、じゃぁ後でね。」

女の子はそう言うと
嬉しそうにボール歩を持って走り去っていきました。

十数分後
ロビーに居合わせた幹事さんと立ち話をしていると
ふいに足元にボールが転がってきました。

(あっ、さっきの女の子だな)

ボールの転がってきた方向に目をやると
女の子がモジモジしながら立っています。

「お兄ちゃん、仕事、まだ終わらないの」

「うん、お兄ちゃん忙しいし、もうすぐ晩御飯の時間だから
 お嬢ちゃんもお部屋に戻った方がいいよ。 
 自分のお部屋わかるかな?」

「え〜、つまんない。 お部屋帰っても誰もいないもん。」

「そうかなぁ、お母さん心配してるかもよ」

「いや、お兄ちゃんと遊ぶの!」

その時、幹事さんが

「おい、S君、誰と話してるんだ?」

「誰とって、この女の子ですが」

「どの?」

女の子の姿はどこにもなかったそうです。
S君が幹事さんに事情を話すと

「S君、これ、うちの産土神社のお守りだけど、持っとき。
 それから、
 今晩は1人にならない方が良いだろうから、私の部屋で寝なさい。
 憑かれたりしたら大変だからね。」

幹事さんは、この手の話に詳しいらしく、
S君を部屋に入れると部屋の前(ドアの前)に盛塩をし、
お札のような物を書いてドアの内側に貼りつけたそうです。

「これで部屋の中には入ってこないと思うよ。」

S君は幹事さんのお言葉に甘えて、そのまま床に就いたのですが、
一晩中、
ドアの向こうでボールをつく音が響いていたそうです。