「ドア」
佐賀県 U温泉 有名老舗ホテル某


テレビ等で紹介されたりする旅先での恐怖体験談の中に、

『部屋の壁にドアがあって、開けようとすると鍵がかかっている』

・・・なんてのが、よくありますが、
これって、実は本当の話なんです。

私の知っている限り、
一般のお客様を、そんな部屋に通すホテルや旅館は皆無ですが、
私達、乗務員専用の部屋では大して珍しい事ではないんです。
例えば、

『壁にドアがあって、開けようとしても鍵がかかっている』
『ドアノブが針金でぐるぐる巻きにしてある』
『ドアノブが外されていて、コンクリートか何かで埋められている』
『ドアに鍵はかかってないけど、開けると壁しかない』

私の先輩、Kさんの体験談です。

その日、
彼女の通された部屋は
南向きで広く清潔な洋室だったのですが、
壁に明らかに怪しいドアがあったんです。

そのドアはノブがなく
ノブの部分には鉄板が打ち付けられ、
ドアが絶対開かないようにと壁に鉄板とボルトで留め、
さらに、
ドアの前をふさぐように、重そうなテーブルが置いてあったそうです。


その夜、
何時頃だったのでしょうか、

ドン、ドン、ドン

彼女は、
何かを叩くような音に眼を覚ましたんです。

「何? 夜中に・・・」

枕元のスイッチで電気をつけてみると
その音は壁のドアから響いており、
ドアの前のテーブルかガタガタ動いていたんです。

そう、
ドアが開こうとしていたんです。

「いや〜、やめてぇ〜!」

彼女は飛び起きると
部屋から逃げ出そうとしたのですが何故か部屋のドアは開きません。

その間も
壁のドアを叩く音はますます大きくなり
テーブルは今にも倒れてしまいそうに揺れています。

「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏・・・」

彼女は目をつぶったままお経を唱えました。
すると
ドアを叩く音は止み、部屋は元の静けさに戻ったんです。

「助かった?」

彼女がそぉ〜と目を開けると
目の前に
スーツ姿の青白い痩せた男が立っていたんです。

男は彼女の顔を覗き込むと
ニタァ〜・・・と気味悪く笑いました。

「いやぁー」

彼女はそのまま気絶、気がついたときは朝になっていたそうです。