「床を這うもの」
秋田市 某ホテル乗務員部屋


私の先輩、Sさんの体験談です。

舞台となったホテルはアクセスが良いため、
秋田観光の拠点として利用される事が多いホテルのひとつです。
皆様の中にもご利用された方が結構おられると思いますよ。  (*^。^*)


その日、Sさんは
昼間のハードスケジュールの疲れから早めに床に就いたのですが、

ズズッ・・・ズズッ・・・ズズッ・・・

・・・という
何かが畳の上を這うような物音に目を覚ましまたんです。
携帯電話で時間をみると1時を少し回ったところ。

「うぅ〜ん、何なんだ? こんな真夜中に・・・」

Sさんは物音が聞こえてきた部屋の隅に目をやったのですが、
そこには何もおらず、物音ひとつしていません。

「気のせいだったのかなぁ・・?」

・・・と、
寝返りを打ち、部屋の隅に背を向けると、また目を閉じたそうです。

しかし、しばらくすると
また、部屋の隅から畳の上を這うような物音が聞こえてきたのです。

ズズッ・・・ズズッ・・・ズズッ・・・

そして
物音は少しずつ・・少しずつ・・Sさんに近づいてきます。
何者かの気配もハッキリと背中に感じます。

ズズッ・・・ズズッ・・・ズズッ・・・

ズズッ・・・ズズッ・・・ズズッ・・・

「うわぁー!!」

・・・と、悲鳴を上げながら
布団を音の主に向かって投げつけると、
電気をつけよう立ち上がったんです。

しかし、次の瞬間、
Sさんは足にしがみつく「モノ」を見て凍りついてしまったんです。

「あ・・赤ちゃん・・??」

その赤ちゃんは裸で、
末期の栄養失調の様に痩せ細りお腹だけがポンと出ていて、
顔には表情はなく目は落ち窪み唇も乾いてヒビ割れています。

そして、
無表情のままSさんを見上げ
Sさんの足をペタ・・ペタ・・と氷のように冷たい手で掴み、

「抱っこしてぇ〜」

・・・と、言わんばかりに、まとわり付きます。

「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏・・・」

Sさんが恐怖に震えながらそう唱えると、
足に抱きついていた赤ちゃんの姿は、
少しずつ薄くなっていき、やがて消えていったそうです。

Sさんは、
電気を点け、まんじりともせず朝を迎えたそうです。


後で聞いたところ、
この地域は天保の大飢饉の際、被害の大きかった地域のひとつで、
赤ちゃんは間引かれ、年寄りは捨てられ・・・
それでも、
何万という餓死者が出たと伝えられていたそうです。

この赤ちゃんの霊もきっと・・・