「チャルメラ」
秋田県T温泉


6〜7年前の事です。

ドライバーさんの部屋で
ドライバーさん、ガイドさん、私の3人で飲んでいたんです。

11時半を少し過ぎた頃、
窓の外からチャルメラの音が・・・

♪チャララァーララ、チャラ、ララララァー♪

外を見ると、
ホテル正面の駐車場の向こうに提灯と屋台の影!

「ねっ、小腹すいてない? ラーメン食べようよ!」
「賛成!」

早速、3人で駐車場に急いだのですが、
駐車場に出てみると屋台の影も形もありません。

「あれ? もう、いなくなっちゃったの?」
「えぇ〜、残念・・・」
「がっかりぃ〜・・・」

仕方なく、ホテルのエントランスまで戻ってくると、
駐車場の出口の辺りから

♪チャララァーララ、チャラ、ララララァー♪

振り向くと、
提灯の光がゆれながら
駐車場の向こうの道路をゆっくりと移動しています。

「あっ、待ってぇ〜!」

慌てて、
駐車場の出口まで走り、屋台の向かった方向に・・・

「あ、あれ?」

どこにもラーメンの屋台が見当たらないんです。
チャルメラの音も提灯の光も・・・・
ほんの20秒程しか経っていないのに・・・

狐につままれたような気持ちでホテルに戻ってくると、
ちょうどホテルの方がおられて、

「どうされたんですか? こんな時間に? 大きな声を上げて・・・」

私達が口々に事情を話すと

「な、何かの見間違えでは・・・今では、そんな屋台は・・・」

ホテルの方はそれだけ言うと、
そそくさと逃げるように立ち去ったんです。

「何か、隠してるような態度ね」
「やな感じね」

私達3人は
そう言いながらドライバーさんの部屋に戻ったんですが、
さりげなくもどの外に目をやると、
屋台の提灯だけがユラユラと駐車場の出口辺りを
彷徨っているのが見えたんです。

「あっ、あれ!!」

私達三人の目は
移動する提灯に釘付けになってしまいました。

提灯はその後もしばらくの間、
空中を漂っていたかと思うとスゥーと闇の中に消えて行きました。

「やっぱり、あの屋台って・・・」