「大鏡」
富山県U温泉


お客様に伺った話です。

宴会、二次会終了後、
一風呂浴びてリフレッシュしてから三次会に繰出すことになり
みんな大浴場に向かったのですが、
Nさんは、

「いやぁ〜、俺、飲んで風呂入ると一気に酔いがまわるから」

・・・と言って、
ロビーで一人待つ事になったんです。

さすがに12時近くになるとロビーには誰もいません。

「えらい静かやな・・・」

そう思いながら、
Nさんがマガジンラックの週刊誌を読みながら待っていると、
目の前をホテルの丹前を着た女性(子供?)が
横切るのが視界の端に入ったんです。

「えっ、こんな時間に・・・」

不思議に思い、歩いていった方を見ましたが誰もいません。
壁に大きな鏡が掛かっているだけです。

「ふぅ〜ん・・・酔ったかな? 洗面所で顔でも洗ってこよ」

Nさんはそう呟いて、
ソファーから立ち上がり歩き始めると、
ホテルの丹前を着た30代前半の魅力的な女性が
彼の横をすり抜けて行ったんです。

「ほぉー」

男の悲しい性(サガ)で、
Nさんは振り向いて彼女の背中を追ったそうです。
すると、
その女性は
ロビーの壁に掛かる大鏡の中に吸い込まれていったのです。

「う・・うそだろ・・」

その時、
風呂を早くあがった何人かがロビーに入ってきました。

「やぁ、Nさん、お待たせ」
「おっ、ちょうどいい所に来た・・・」

Nさんは今見たことを仲間に話し、皆で鏡の前に立ちました。

「酔って夢でも見たんじゃないの?」
「目の錯覚だよ」

皆は口々にそう言いましたが、
Nさんは鏡の向こうに、
ホテルの丹前を着た男女が何十人も談笑しているのが、
ハッキリと見えたそうです。