「波紋」


先日、
北関東のある有名な温泉郷に行ったんです。

私、ガイドさんは、
お客様と同じ、高台にある庭のきれいなホテルに泊ったんですが、
ドライバーさんは他館(*)になったんです。
(*)お客様の泊まるホテルが満室の場合、近くのホテル等に泊まること

で、
翌朝、ホテルのロビーで、
ドライバーさんが私とガイドさんの顔を見るなり、

「俺、昨夜、とんでもない目にあっちゃったよ!」

彼の話によると、
他館先のホテル・・・というより民宿は、
70歳位のオーナーご夫婦とパート(?)のおばちゃんが1人って感じの
小さな、少し古びた民宿だったそうです。

通された部屋は10畳ほどの和室で、
古いながらも掃除も気配りも行き届いた落ち着いた部屋。
シンプルながらも美味しい夕食を頂いて、床に就いたそうです。

そして・・深夜、
彼は水の音に目を覚ましたんです。

ポチャン・・・・ポチャン・・・・

「うん? 洗面の蛇口、ちゃんと閉めなかったのかな?」

ポチャン・・・・ポチャン・・・・

「あれ? この音・・・俺の足元から聞こえるぞ?」

彼が布団から身体を起こすと、
天井から水滴が落ちてきていて、
布団の足元近くの畳には、直径1m程の水溜りが出来ています。

「雨漏り?」

ポチャン・・・・ポチャン・・・・

水滴が一粒落ちるたびに水溜りに波紋が広がり、
いや、
波紋と共に、水溜りそのものがドンドン大きくなって、
水滴が3〜4粒も落ちる頃には、布団全体が水溜りの中に・・・

「な、何だ、これは?」

彼が立ち上がった瞬間、
水の中から手が出てきて、彼の右足を掴み、
水の中に引きずり込んだんです。

「た、助けて・・助けてくれ・・・」

膝・・腰・・胸・・首・・どんどん、水の中に引き込まれて、
ついには完全に水の中へ・・・

「た・・・助け・・ボコボコボコ・・・ウッ・・・」

彼はそのまま意識を失ってしまい、
気が付いたら、朝になっていたそうです。

部屋は何事も無かったように静まり返っていて、
畳も布団も自分自身も水に濡れた痕跡すらありません。

「ゆ、夢だったのか・・・?」


・・・・・

MoMo   「もう、朝っぱらから、脅かさないで下さいよぉ!」
ガイド  「ホント、もう、信じられへん! どうせ夢だったんでしょ!」
ドライバー「いや、それがな・・・」

彼がズボンの右足のスソをまくり上げると、
彼の右足には、赤黒い手形がハッキリと付いていました。