「白髪」


今回の話は
和歌山県某世界遺産へ添乗したときの出来事です。

この仕事には、
親友のMちゃんがガイドに就いてくれたので (参考:第6話「あの声」)
仕事が終った後、私の部屋で2人宴会を始めたんです。

いつもなら2人でガンガン飲むんですが、
その晩は昼間の仕事の疲れもあって
4〜5本目の缶ビールが空く頃には、私は畳の上で熟睡モード。

1人取り残された彼女も
しばらくの間はテレビを相手に飲んでいたらしいのですが、
そのうち眠たくなってきて、私の隣でウトウトし始めたそうなんです。

その時、

「ビシッ!!」

天井から空気を引き裂くようなラップ音

「何? 今の音?!」

彼女が天井を見上げると
天井中の板の隙間から白い煙がスゥ〜と降りてきて、
天井の中央あたりにゆっくり集まってきたかと思うと
長い白髪と無精ひげの男性に姿を変えていったんです。

彼女は隣に寝ている私を起こそうとしたのですが
なぜか声が出ず、身体も自由に動きません。
わずかに動く手で私の腕を握って強く揺さぶったのですが、
私は全く目を覚ましません。

そのうち、
白髪の男は天井付近から畳の近くまで降りてきて、
私達の周りをゆっくり廻り始めたそうです。

彼女は恐怖に震えながら、
「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏・・・」と心の中で唱えましたが、
白髪の男はひるむどころか、ますます私達に近づいてくると、
私達2人に覆いかぶってきたそうです。
そして、
彼女は白髪の男の異様な重みに押し潰され、
呼吸が出来なくなり、そのまま気を失ってしまったんです。

明け方、
窓から入る陽の光に彼女が目を覚ますと、
私達2人の間に白髪の男が寝ていて・・・
私も彼女もその白髪の男の腕にしがみついていたらしいのです。

「ギャー!」

彼女の悲鳴に
それまで熟睡していた私も飛び起きました。

「な、何? どうしたん? Mちゃん?」

「どうしたんって、MoMoちゃん。白髪の男が・・・」

「白髪の男??」

そうなんです。
私が目が覚めるのと同時に白髪の男の姿は消えてしまってたのです。
そして、
その代わりに

「ギャァー!! 何これ??」

彼女の指には、
十数本の白髪が絡み付いていたのです。