「定宿」
大分県Y温泉


会社の上司から聞いた話です。

この温泉郷のある老舗旅館には
10年以上、毎年12月30日〜1月3日まで逗留される
初老のご夫婦がいたそうです。

ご夫婦は毎年チェックアウトされるときに翌年の予約を入れ、
毎年同じ部屋で仲睦まじく年末年始を過ごされていたそうです。

ある年の事、
30日の4時頃、ご夫婦が旅館に到着されたんです。
顔馴染みのご夫婦という事で、女将がお部屋にお通したそうです。

しかし
夕食時、仲居さんがお膳を持って部屋に行ったときには
部屋には誰もおらず、ご夫婦の荷物も無かったのです。
女将が入室時に入れたお茶も手付かずのまま、
まるで初めから誰もいなかった様な部屋の様子なのです。

ご夫婦にいつもと変ったところは無く、
また、勝手に帰るような方々でもないので、
何かの事故、事件にでも・・・と思い、
旅館はご夫婦のご自宅に連絡を入れてみると
ご夫婦のお通夜が行われていたのです。

29日に夫婦して旅行の買物に出かけ、交通事故にあったというのです。

翌年12月30日・・・
ご夫婦がいつも利用していた部屋には、
当然の事ながら別のご夫婦が宿泊していました。

その夜、
彼等は部屋の隅に立つ、
仲睦まじい初老の夫婦の霊を目にすることになったんですが、
その後も
1月3日までの5日間の毎日、昼夜を問わず、
その部屋に宿泊した全てのお客様が
初老の夫婦の霊に出逢う事になったんです。

時には部屋の片隅に立つ姿、
時にはテーブルでお茶を飲む姿
そして窓際で楽しげに談笑する姿と・・・

何ら害を加えてくるわけではないのですが、
いつも部屋の中にいるというのです。

その翌年
十分なお祓いをした上で
年末年始のシーズンを迎えたのですが、
やはり毎日のように初老のご夫婦の霊が現れたのです。

以来、
この老舗旅館では毎年12月30日〜1月3日の間
初老のご夫婦が利用したこの部屋は開かずの部屋となっています。

それ以外の日にご夫婦が現れる事はないと言います。