「風船」


今回の話は
私がいつもお世話になっている
某有名家電メーカーのS課長の不思議な体験です。

十年程前の社員旅行、
課長は今回の話の舞台となるこのホテルにやって来たそうです。
(当時は課長じゃなかったそうです。 ちなみに私は女子大生だよん)

宴会後、
課長の他、Aさん、Bさん、Cさんの4人は
二次会にも出ないで三階の自分達の部屋で雀卓を囲んでいました。


ジャラ、ジャラ、ジャラ、ジャラ・・・


課長 「おい、今の、何の音だ??」

Aさん「あぁ、水の音がしたな」

Bさん、Cさん「いや、何も聞こえなかったぞ」


ジャラ、ジャラ、ジャラ、ジャラ・・・


課長、Aさん「ほら、今、水の音!、中庭から」

課長とAさんが立ち上がり窓を開けると
中庭の池が淡い照明に浮かび上がっています。
そして、
3〜4才の女の子が赤い風船を持って走って来たかと思うと
何かにつまづいて転び池に落ちたのです。


ドボン!!
バチャ、バチャ、バチャ、バチャ・・・


周りに大人のいる様子は無く、
女の子はそのまま池の中に沈んでいき、
赤い風船は空に向かって漂っていきます。

課長「大変だ! 助けに行かないと」

そう叫んだ次の瞬間、
池に落ちたはずの女の子が、
また赤い風船を持って走って来たのです。
そして、またドボン!

呆気にとられて見ていると
その女の子は何度も何度も繰り返し、
風船を持って走ってきては池に落ちるのです。

課長 「おい、A、見えてるか、アレ・・」

Aさん「おう、赤い風船が飛んで来たかと思うと、水の音がして・・・」

課長 「女の子は??」

Aさん「いや、お前、女の子が見えるのか?」

そこに、
Bさん、Cさんもやって来て、

   「何が見えるって???」

課長 「赤い風船を持った女の子が池に落ちて・・・」

Aさん「赤い風船が飛んできて、大きな水音が・・」

Bさん「えっ?、風船は飛んでるけど、水の音なんかしないぞ」

Cさん「どこに風船が飛んでるんだ? 池しか見えないし、音もしないぞ」

課長、Aさん、Bさん、
   「C!、お前、何にも見えないのか??」

・・・・・

翌朝、
ホテルを発つ前、
四人が中庭に出てみると
そこには花壇があるだけで、池などは何処にも無かったそうです。