「今から」
S岳


そろそろ、
夏山の季節という事で、
今回は山にまつわる話をします。

大学時代の友人の話です。

彼が
ゼミの仲間と一緒にS岳に登った時のこと

夏山の気楽さもあってか、
ハイキング気分で鳥倉林道〜三伏峠〜本谷山と
思う存分に眺めを楽しみ、のんびりと登ったのが失敗だったそうです。

というのも
この日の目的地のS岳小屋に着いたのは、もう、暗くなりかけた頃。
S岳小屋のキャンプ場は既にいっぱい。

「のんびりし過ぎたんだよー」

・・・と
ボヤイても後の祭りです。
仕方ないので少し下山して、
平ら場所を見つけテントを張る事にしました。

夜中の1時頃だったでしょうか。
テントの外から私達を呼ぶ声がします。

「今から、S岳に登りませんか」
「えっ、いやぁ、少し明るくなってからにします・・」

彼らは答えたそうです。

しばらくすると、また、足音がして

「今から、塩見岳に登りませんか」

先程とは別の人の声です。
彼らは、今回も断りました。

日の出を見るにしてもこんな時間から登るなんて考えられません。
だって、
頂上は、もうそこなんですから・・・

でも、
外の足音は1人2人ではなく10数人・・・・、
いやそれ以上の数だったそうです。

「なんなんだ、こんな時間に?」
「もしかしてら、何かイベントでもあるんじゃないの?」

彼らがテントから首を出して外を見ると

真冬の装備をした人達が、
漂うように山を登っていくところだったそうです。