「馴染み」
中国地方W
他館先でよく利用される某旅館


中国地方のWというと、
昭和9年に日本最初の国立公園の一つとして指定された場所で、
山からの眺める備讃瀬戸の風景は瀬戸内海随一と言われています。

今回の話は、
このWの某ホテルでの知人のドライバーさんの体験談です。

このドライバーさん、たいへん明るいお人柄で、

「霊感のある奴はたまに見るっていうけど、
 俺は霊感ないし、ビール飲んでスグ寝るしなぁー」

・・・と、いつも豪語されていたので、
私もこの人だけは、絶対、霊体験とは無縁の人だと思ってたんですが、
この間・・・ついに見ちゃったというのです。

その日、
彼は他館先の旅館に泊まることになりました。
(他館⇒お客様の泊まるホテルが満室などの理由で、
     他の旅館・民宿に泊まること)

その旅館は古い純和風の建物で、
一見すると普通の家のようにも見えます。
各部屋も極めてオーソドックスな飾り気のないシンプルな造りの和室。

実は彼・・・、
ここ1年程はこの旅館には訪れていなかったのですが、
それまでは年2〜3回は訪れていて、
女将や仲居達とは顔馴染みだったそうです。

夜11時過ぎ、彼が床に就こうとすると、

「失礼いたします。 もうお休みになられましたか?」
・・・と障子越しに女性の声がします。

「あぁー、その声はYさんだね。こんな時間にどうしました? 
 今日はお休みだったんでしょう」 

「はい、でもお久しぶりですので、ご挨拶だけでもと思いまして・・・」

「そうですか。それはわざわざ・・さっ、中に入ってください。」

「いいえ、もう遅いですから、失礼いたします、おやすみなさい」

「じゃぁ、おやすみなさい、また明日」

彼は
「相変わらず律儀な仲居さんだな〜」
・・・と思いながら床についたそうです。

翌朝、
女将さんに、昨夜、Yさんが挨拶に来たことを話すと、

「そうですか、あの子、また来てたんですね」

「えっ、どういうことですか?」

「実は、あの子、半年前に亡くなったんですよ。
 でも馴染みのお客さんが来ると挨拶しに出てくるんですよね。
 仕事熱心な子でしたから・・・。」

「じゃー、昨夜のYさんは・・・」

よく考えると、
鍵の掛かる部屋で障子越しに挨拶など出来るはずも無いのですが、
その時には全く違和感を感じなかったそうです。

おそらく、
Yさんは今日も馴染みのお客さんを待ち続けているのでしょうね。