「祝儀袋」
鹿児島県K温泉


団体旅行の場合、
ドライバーやガイドはお客様からご祝儀を頂く事が一般的です。
添乗員は基本的には祝儀は不要ですが、結構、頂いたりしてます。
・・・ってか、
なぜか私はいっつも頂いてます。特に一人暮らし始めてからは。

現在なら大体5,000円位が相場、
景気の良い団体であれば10,000円を超える事もあるんですよ。

さて今回の体験談は、
博多に行った際、
ご一緒させて頂いた地元のガイドさんにお聞きした話です。


場所は南九州の活火山の程近くにある有名な温泉地。
その日は、お客様方が宿泊されるホテルが満館ということもあり
車で5分ほど離れた古びた民宿に宿泊する事に。

通された部屋は清潔感のある10畳ほどの和室、
嬉しい事に民宿のわりには設備も結構充実しています。
ただ、ドレッサー・・・いえ鏡台だけが何故か年代物だったそうです。

「わぁ〜、なんて古い鏡台なの??」

彼女は鏡台の前に座り込むと
珍しげに扉を開けたり、引出しを引いたり・・・
すると、
引出しの一つから色あせた祝儀袋が出てきたんです。

「随分古い祝儀袋ねぇ、
 昔、誰かが忘れたのかな? もしかして、お金入ってたりして?!」

彼女がそう言いながら祝儀袋を手に取り中を見ると、
手の切れそうな千円札が3枚入っています。
ただ、この千円札の顔は伊藤博文。

「古いとは思ったけど、どれだけ古いのコレ??
 今まで誰も気付かなかったのかしら??」

で、彼女、
コレだけ古いものだと誰のかも判らないし・・・ということで
貰っちゃう事にしたんです。

深夜、何時頃でしょうか。
彼女はガタッ、ゴトッという音と人の気配に目を覚ましました。
布団の中から彼女が音のするほうに目を向けると
左肩から左腰にかけての半身が無い女性が、
鏡台の扉や引出しを開けて中を探っているんです。
(浴衣を着ていたそうです。)

「ない・・・ないわ。 何処にいったの?」

彼女は恐怖のあまり、声をあげる事も出来ません。

その半身の女霊は鏡台の中を散々かき回した後、
今度は押入れの中を探り始めます。

「ない・・・ないわ。 何処にいったの?」

女霊はそう呟きながら
しばらく部屋の中をウロウロと漂っていたかと思うと、
突然、彼女の枕元に座り、彼女の顔を覗き込みながら、

「ねぇ、あなた。 私の祝儀袋知らない??」

女霊と完全に目が合ってしまった彼女は、
反射的に首を横に振ったそうです。

「そぅ、知らないんだ?」

女霊はガッカリしたようにうな垂れると
また鏡台の引出しの中を探し始めました。
彼女は布団を頭からかぶり、
「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏・・・」と唱え続けましたが、
いつの間にか眠ってしまったそうです。

明朝、
陽の光に目を覚ました彼女は真っ先に
カバンに入れた祝儀袋を取り出し、鏡台の引き出しに戻しました。

数ヵ月後、
彼女は再びこの部屋に宿泊する事になったんです。
部屋に入った彼女は、
恐る恐る鏡台の引出しを開けてみたそうです。

そこには色あせた祝儀袋がひとつ・・・・