「指輪」
兵庫県K温泉


その日、
私が通された部屋は乗務員部屋ではなくて一般客室(和室)でした。

「うわぁ〜、飾り気はないけど、なかなか良い部屋だわ!」

・・・と、
悦に入りながら、部屋を見渡した時のこと、
何故か、床の間の金庫に目が釘付けになったんです。
それも、何の変哲もない、どこの部屋にでもあるような金庫。

その、いつもなら全く気にも求めない金庫が、
その時に限って、気になって気になってしかたなかったんです。
・・で、
ついに誘惑に負けて(?)金庫の扉を開けてみると指輪が一つ

「あれ、前のお客さんの忘れ物かな?」

早速、フロントに電話

「○○旅行のMoMoです。部屋の金庫に指輪の忘れ物が・・・」

「えっ、指輪ですか?」

「はい、ムーンストーン・・・かな?」

「あの、金庫の中ですか?」

「えぇ、そうです」

「あの・・MoMo様、お部屋を変更させて頂きます。
 すぐに私が参りますので、お支度をお願いいたします。」

「えっ?!」

「すぐに参りますので。」

「えっ、でも・・・」

「指輪は、金庫の中、必ず元の位置に戻しておいて下さい。」

「いや、あ、あの・・・」

電話を切ると
5分もしないうちにフロントマンがやって来たんです。

「申し訳ございませんでした。お部屋の掃除が行き届きませず・・・。
 別のお部屋をご用意させて頂きましたので、どうぞ」

そう言うと、
私の荷物を持ってさっさと部屋の外へ。
私は慌てて後を追いかけながら

「どういう事ですか? あの指輪は一体??」

・・・と、
フロントマンは尋ねてみても話をはぐらかすばかり。
そして
次に通された部屋はセミスイートのスゴイ部屋(極上でした)

「冷蔵庫のお飲物はご自由にお飲みください。、
 よろしければルームサービスもご利用くださいませ。
 全てサービスさせて頂きますので。」

「えっ、あっ、はい、ありがとうございます」

ラッキーと言えばラッキーだったんですが、
私は開けてはいけない金庫の扉を開けてしまったのでしょうか?
それとも、
扉を開けたお陰で災いから逃れる事が出来たのでしょうか?