「一輪挿し」
長野県 ホテルK


今回の話は
仕事でよくご一緒させて頂くガイドさんの不思議な体験です。

その日、
彼女が通された部屋は、
さほど広くない部屋でしたが、明るくて清潔感があり、
小さな床の間の一輪挿には、
生き生きとしたカワイイ花が挿してあったといいます。

深夜、
熟睡していた彼女は強い花の香りに目を覚まします。

「強い香りねぇ、どこからするのかしら?」

そう思いながら目を開けた彼女は驚きのあまり声も出ません。

なんと!
天井が手の届きそうな高さにあるのです。
さらに、
天井は少しずつ降りてきて、ついには身体のすぐ近くまで来たのです。

「いゃぁー!」

次の瞬間、
今度は天井が少しずつ遠のいていきます。

彼女が
掛布団をはねのけ身体を起こすと
掛布団はそのまま目の前から姿を消し、
下のほうでバサッ・・・と音がしたのです。

「掛布団が落ちた? どうして? ベッドじゃないのに?」

恐る恐る周りを見渡した彼女は、その時、初めて気付いたんです。
天井が降りてきたのではなく、
彼女自身が蒲団ごと宙に浮いている事に・・・。

「ど、どういうこと??」

困惑する彼女をよそに蒲団はゆっくりと下に降りていきます。
そして、
畳の上1m辺りで止まると、また上に・・・
そして再び、
天井付近までユックリと浮き上がると、また下に・・・。

彼女は叫ぼうにも恐怖のあまり声が出ず、
宙に浮いた蒲団の上では身体も自由に動かせず、
腰が抜けたように呆然としていると、
ふいに女の子の声が聞こえてきたんです。

「お姉ちゃん・・・お姉ちゃん・・・」

反射的に声のする方を見ると
床の間の前に4〜5才位のかわいい女の子が立っています。
うれしそうな顔をして、浮遊している彼女の姿を見ているのです。

「貴方、貴方なのね! お願い、助けてぇ!、お願い!」

彼女が心の中でそう叫ぶと、
女の子は寂しげ呟いたんです。

「お姉ちゃんもそうなのね・・・・」

次の瞬間、
女の子の姿は消え、
宙を浮いていた蒲団はスゥーと畳の上に降りたそうです。

彼女は立ち上がると電気を点け、
女の子が立っていた床の間に目を向けたんです。
その時、
彼女の目に入ってきたのは、
しおれて腐った一輪挿しの花・・・・。

この体験・・・余りにも突飛なので、
彼女自身、初めは夢でも見たんじゃないかと思ったそうです。
しかし、
自分が立っている敷布団の下に掛布団があるのを見て、
夢などではなく、何かが起こったという事を悟ったそうです。
(いくら寝相が悪くても、掛布団が敷蒲団の下には入らないもんね)

それに
部屋の気温や湿度を考えると
寝る直前まで生き生きと咲いていた花が、
数時間でしおれて腐る事など、どうしても考えられないそうです。

何とも不思議な体験です。